- 市場価値の高いものを「とても安く」売買することを低廉譲渡という
- 利害関係のない当事者同士では低廉譲渡でも問題にならない
- 利害関係のある当事者間(親子など)で低廉譲渡があると、贈与税の対象となる
- 「とても安く」の基準は明確ではない
- 不動産では時価が贈与税の基準、他は相続税評価額を基準にする
- 市場価格の80%程度であれば低廉譲渡に該当しない
- 低廉譲渡による贈与税を支払うのは、贈与を受けた人
不動産の低廉譲渡が、時価を評価額とする背景
個人から著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合には、その財産の時価と支払った対価との差額に相当する金額は、財産を譲渡した人から贈与により取得したものとみなされます。(中略) また、時価とは、その財産が土地や借地権などである場合及び家屋や構築物などである場合には通常の取引価額に相当する金額を、それら以外の財産である場合には相続税評価額をいいます。
国税庁 NO.4423 著しく低い価額で財産を譲り受けたとき
以前は、不動産の売買においても時価ではなく、相続税評価額(路線価)が贈与税の基準価格になっていました。
しかし、不動産の相続税評価額は市場価格(時価)の80%程度に抑えられているため、贈与を不動産で行うほうが20%分の節税効果がありました。
くわえて、マンションにおいては、市場価格と相続税評価額に大きな価格差があり。
富裕層が価格差を利用して、生前贈与の節税をしていた為、時価による評価に切り替わりました。
不動産取引価格 (実勢価格) | 公示価格 | 相続税路線価 | 固定資産税評価額 | |
利用方法 | 売買の参考に | 売買・課税の目安 | 相続税・贈与税 の計算 | 固定資産税の計算 |
発表時期 | 随時 | 毎年3月 | 毎年7月 | 3年ごとに見直し |
評価額 | 100% | 100% | 80% | 70% |
調べる | 国交省ページ | 国交省ページ | 国税庁ページ | 課税明細書 |
マンションは通常、上下階の並び(101・201・301・・・)は同じ間取り、同じ平米数です。
相続税評価額では、同じマンションの同じ平米数であれば、評価額は同じです。
しかし、実際の取引価格(時価)では、1階の部屋と35階の最上階には、大きな価格差が生じます。
富裕層の贈与による節税では・・、
上階の高額なマンションを購入、息子などに安く譲り渡す(低廉譲渡)。
そして、息子は、何年か住んで、マンションを売却・換金。
時価では高額な上層階のマンションを、安い相続税評価額で贈与できたため、節税目的で頻繁に用いられました。(この仕組みを解説した書籍も出版されました)
※現在は、税法の網がかかったため利用できません。
それでも低廉譲渡が節税に効果的
ここでは、親子間で低廉譲渡を行った節税について、シミュレーションしてみましょう。
- 時価5000万円のマンションを父親が購入
- 父親が息子(20歳以上)に2000万円で売却
- 時価と低廉譲渡の差額は3000万円
親子間であっても、息子が未成年者の場合、特例税率ではなく一般税率になるため、息子は20歳以上としました。
4000万円(時価の80%)で息子に譲渡すると低廉譲渡にあたらない可能性があり、2000万円でシミュレーション。
- 時価と(低廉)譲渡価格の差額を算出
- 基礎控除額 110万円を引く
- 該当する特例税率をかける(乗算)
- 該当する控除額を引く
特例贈与財産用 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | – |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1000万円以下 | 30% | 90万円 |
1500万円以下 | 40% | 190万円 |
3000万円以下 | 45% | 265万円 |
4500万円以下 | 50% | 415万円 |
4500万円超 | 55% | 640万円 |
【参考】贈与税の計算と税率(国税庁)
息子さんは、譲渡価格2000万円に贈与税1035.5万を加えた、3035.5万円で、時価5000万円のマンションを手にしました。
お父さんは、5000万円で購入 → 2000万円で譲渡なので、実質3000万円を使って、5000万円の価値(財産)を息子に移すことに成功しています。
仮に、父が息子に現金で5000万円を渡すと、息子は2049.5万円の贈与税がかかります。息子か実質的に受け取れる金額は3000万円未満です。
【まとめ】マンションの低廉譲渡による節税
- 5,000万円分、価値の移動
- マンションの低廉譲渡なら、贈与税1,035万円の支出
- 現金で5,000万円を渡すと、贈与税2,049万円の支出
- 現金の手残りが5,000万円必要なら、現金9,550万円の贈与(贈与税4,550万円)
父と息子の財布を一つとして考えた場合、支出となる贈与税を少なくできれば節税効果が高まります。
現金で5,000万円を贈与するより、マンションで低廉譲渡したほうが贈与税は安上がり。
マンションの低廉譲渡を使わずに、5,000万円を息子の手元にのこすには、現金で約9,550万円を贈与しなければなりません。
どの場合も、贈与税の申告は翌年2月1日~3月15日までとなっていて、期間内に納税も済ませなければなりません。
納税の方法や計算式が、国税庁のホームページでしっかり解説されていて。
正く納税されれば、低廉譲渡は何ら問題ないことがハッキリしています。
相続税よりも贈与税のほうが税率は高いので、(国としては)むしろ積極的に低廉譲渡を利用してほしいのではと考えられます。
贈与税は1035万5千円となります。